愛のある言葉が人生を動かす

文学者・徳冨蘆花(とくとみ・ろか/本名=健次郎、一八六八~一九二七)の青年時代の逸話です。

青年時代の健次郎は、兄の蘇峰(そほう)がすでに一流の新聞記者として名を成していたのとは対照的に、
文学を志しても道は開けず、一人、京都で人生に行き詰まっていました。
さらに恋愛に破れると、さんざん放蕩を繰り返した挙げ句に郷里の熊本へ連れ戻されます。

「兄は天才なのに……」という周囲の冷たい眼が、健次郎を待っていました。

ところが、伯母である竹崎順子は

「何(なん)の、好(よ)か、好(よ)か」

という言葉をもって、健次郎の失意を全面的に受けとめ、大いなる人間愛のもとに慰め励ましたのでした。
この愛のひと言が、後の文学者・徳冨蘆花を生み出したといっても過言ではありません。
のちに蘆花は、当時のことを「おばの愛の翼にはぐくまれ」て、「静かに心身の傷を養った」と振り返っています。

愛のある言葉は人の心を育て、その人生を大きく動かすほどの力を持っています。
まさに「愛語、よく回天の力あり」(道元禅師)といえるでしょう。

(出典:ニューモラル 心を育てる言葉366日)