「ありがとう」を数えてみよう

 投稿日: 2017年9月15日 

最近、どんなときに「ありがとう」という言葉を使いましたか?

日常生活を振り返って、こんなことを考えてみる授業はいかがでしょうか。

9月の第3月曜日に迎える「敬老の日」を前に「恩」ということについて、

あらためて深く考えてみませんか。

 

 

■「有り難いこと」に気づく――39個の「ありがとう」

 

ある学校の道徳の授業で、実際に使われたテーマです。

 

 「39個の『ありがとう』」

 

これは自分自身の日常生活の中で「ありがとう」と言える事柄を見つけ出し、

各自39個書き出してみようというワーク。

授業を考えた先生に、その意図を尋ねると

「サンキューだから39個」とのことでした。……なるほど。

 

日常の中にある「ありがたいこと」。

こんな問いを投げかけられたら、誰かに何かをしてもらったり

助けてもらったりした場面を、具体的に思い浮かべる人もいるでしょう。

しかし、39個の記入欄を埋めるために考えを深めていくと

「家族や友だちがいてくれること」

「電気やガス、水道などのライフラインがあること」など、

ふだんは「当たり前」と思っている事柄の中に

もっとたくさんの「ありがたいこと」がひそんでいることに

気づくかもしれません。

 

「ありがたい」とは、漢字では「有り難い」と書きます。

それは「そう有ることが難しい」ということ。

つまり、本来は「めったにないほどすばらしいこと」に

感謝する気持ちが込められた言葉なのです。

 

 

■「恩」を感じる――「原因」を「心」にとどめる

 

私たちは、他の人から直接的に受けた厚意に対しては

すぐに「ありがとう」という言葉を返すことができるでしょう。

しかし、ふだんから当たり前のようにお世話になっている相手や

いつも身の回りにあって、その存在を当然のように感じている物事の

恩恵については、つい、その「ありがたさ」を忘れてしまいがちです。

 

「恩」という漢字は、「因」と「心」とでできています。

因には「もと」や「原因」という意味がありますから

ここに心が加わると「原因を心にとどめる」といった意味になるでしょう。

つまり「恩を感じること」とは、

現在起こっている出来事の原因や物事の成り立ちに気づき、

その「ありがたさ」を感じることであるといえます。

 

「現在の自分の生活」に関して、その成り立ちを考えるとき、

忘れてはならないことは、まず

自分に「いのち」を与えてくれた親や祖先の存在です。

さらには誕生後も、家族だけでなく、近所の大人や学校の先生など

多くの人たちのお世話になってきたことでしょう。

基本的な生活習慣や人間関係の築き方、物事の善悪や社会の決まりごとなども

すべて、そうした身近な「人生の先輩たち」とのふれあいの中で

自然に学んでいくものです。

 

そして、現代の暮らしに不可欠なライフラインやサービス、社会制度なども、

もとをたどれば、先人たちが長い年月の中で「子供や孫たちの世代に

今より少しでもよい暮らしを残せるように」という願いを込めて整備してきたものです。

つまり、私たちは「同じ時代に生きる人たちも、

前の時代を生きた人たちも含めて、無数の先人たちが心を傾けて築いてきた

この社会の中で、大切に養い育てられてきた」ともいえるでしょう。

 

そうしたことを考えるとき、自分という存在や

現在の自分の生活が「かけがえのないもの」であることに気づき、

心の中に温かい力が湧いてくるのではないでしょうか。

 

 

■敬老――「恩返し」と「恩送り」

 

9月に迎える「敬老の日」は

「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う日」です。

 

今、私たちが身近に接することのできる両親や祖父母、 地域のお年寄りたちは

歴史の中に存在する数限りない恩人たちの代表です。

こうした人たちとの温かいふれあいを通じて

「いのちの存続と社会の発展のために

私たちに先んじて貢献してきた先輩世代」への

尊敬と感謝の念を育んでいくことは、「敬老」の意義の一つです。

 

また、私たちは、多くの先人たちから受け継いだ

「いのち」と「心」、さらには「社会」を

次の世代へつないでいくという使命を帯びた存在でもあります。

 

自分が受けてきた恩恵について考えるとき、

そこには「直接的に返すことのできない恩」も

「返しきれないほど大きな恩」もあるでしょう。

しかし、先人たちの苦労や努力を思い、

自分自身もこれに倣って社会の発展のために尽くしていくことは、

先人に対する「恩返し」の一つの方法といえるのではないでしょうか。

さらに「自分がいただいた恩を次代に送る」という意味では

「恩送り」ともいうことができます。

 

さまざまな恩人との「つながり」を思い、これに感謝するとともに、

自分自身もまた、今の社会や次の世代に対する責任を果たしていくこと。

それは、私たち自身が自分の人生を

しっかりと歩んでいくための道でもあるのです。

 

(『ニューモラル』平成28年 全国敬老キャンペーン特別号より) 

 

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